ところが、しばらくすると、プーちゃんはドスドス足を踏み鳴らして海からあがり、一人で砂遊びをしはじめた。
はいはい、見ていましたよ。
あなたたちはみんなで「レスキューごっこ」を始めたんだよね。一人が海で溺れたふりをして、ほかの子がその子を砂浜まで担いでレスキューする、発想力豊かな遊びだ。
みんなで何回もレスキューごっこをして、プーちゃんもレスキューしてもらいたくなった。「助けてー」。プーちゃんは叫んだけど、ちょうどその直前にみんなの熱が冷めて次の遊びへと移ってしまっていたんだ。
プーちゃんの気持ちを表すかのように、今日は8時前になっても曇り空で暑くならず、しかも風がでてきた。浜辺にいると肌寒いくらいだ。そろそろ、帰ろうかー。
帰りの馬車のなかで、とめどない話をした。みんな他の子の話なんて聞いてやいない。途中で少し日本語の話をしたからか、子どもたちは私に「シャワーして服着替えたらおばちゃんちに行くね。日本語教えてね!」と口約束をして、それぞれの家へ帰った。
私は、体を温めるためにラーメンを作った。出来上がったラーメンをすすりながら、プーちゃんとさっきの海での話をする。
「私はみんなのことをレスキューしたのに、みんなは私をレスキューしなかった!話してもくれなかった!みんな私と遊びたくないんだ!」プーちゃんは語気を強めた。
「そうか、助けてもらえなかったんだね」
「うん…プーちゃん、sad…」
そうだよね、悲しかったよね。でもさあ、子どもなんてみんな人の話きいてないよ。自分の遊びたいことだけに夢中になってしまうもんだよ。さっきだって…と続けそうになり、プーちゃんの全然楽しそうじゃない顔に私は次のセリフを引っ込めた。
「みんな悪気ないんだから、許してあげなさい」「我慢しなさい」…私が子どもだったら、そんな言葉、聞きたくない。そうかもしれないけど、私はまだみんなを許したくないもん。我慢したくないもん。
はぁ、なんて言えばいいんだろう…あーん、と考えていると、子どもたちの言葉が蘇ってきた。そういえば、我が家にくるんじゃなかったっけ?
*
「ねぇ、プーちゃん、みんな来ないね」
「そうだね」
「プーちゃん…ママも sad だよ。sad だけじゃなくて angry だよ!」
私は怒っている顔をした。
「さっきは来るって言ったのに!フンッ」
あはは、ママの顔、こわーいとプーちゃんが笑う。
私は正直、そこまで怒っていなかった。だけど、何より、私はっ、今っ、プーちゃんと悲しみや怒りを共有するチャンスを逃したくないんだよっ!!
「なんでみんな来ないのよっ。フンガッ。プーちゃんのことだって、なんでみんなレスキューしないのよっ。フンガッ。寂しい、悲しい、ムカつく!」
握りこぶしを作ってポコポコ殴る仕草をプーちゃんに見せると、キャハハハハ!もーう、ママ―とプーちゃんは大きな声で喜んだ。
そうそう、きっとこういう言葉を待っていたんだよ、プーちゃんは。自分を悲しませたあの子たちを懲らしめてほしかったんだよね。
私とプーちゃんはひとしきり一緒に怒り、ラーメンを平らげた。
「よっしゃ今日はこれくらいにしといたるわ」
私たちは二人とも、池乃めだかな気持ちだった。
(みどり @hijau39)
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