見知らぬ番号から電話がかかってきた。
こちらの人は電話番号をよくかえるため、知らない番号でも私は電話をとるようにしている。
「こんにちは~、〇〇職業高校の△△です、覚えてますか?」
観光系の職業学校(日本の専門高等学校に近い。3年制)の校長先生だ!覚えていますとも!
私はこの高校の教室を借りて、希望者に課外授業として日本語を教えていた。2017年のことだったな。
お話を伺うと、学校で英語のほかにもう一つ外国語を教えなければならないのですが…とはじまった。むむ、これは日本語教師を頼まれるパターンか??
前回日本語を教えたときに、日本語を教えるのはかなり手ごわいことがわかった。
名選手、名監督にあらず。日本語が母語でペラペラに話せることと、日本語を上手に教えることができるかどうかは別問題なのだ。
私にはできそうにないので断ろうと思ったが、ひとまず先生の話を最後まで聞くことにした。
校長先生の話の要点は次の二つだ。
・英語以外の外国語の先生を探している
・今日中に先生の名前を政府に提出しないといけない
「みどりさん、私は生徒たちに日本語を教えたいと思っています。日本語の先生を引き受けてくれませんか」
ほら、きた。やっぱりだ。
みどりよ、断るのだよ。
*
断ろうとしたところ、瞬時に私の頭の中に2つのことが浮かんだ。
1.この村に私以外に日本人はいない。
2.地域貢献になるかな…。
ここで私が断ったら、先生は誰に依頼するのだろうか。
今日が名簿の提出期限なのに困るよね。
それと、実はこの日の朝、ちょうど今年の下半期の計画をたてるために、これから先の人生でやりたいことなどをざっくりと書き出していた。
そのなかで私は、数年は家族を最優先にしながら日本人向けのライフコーチとして活動することに専念して、3-5年ほどしたら地域のために事業か何かをしたいな、と思い描いていた。
「3-5年後にはじめるなら今から何かしらアンテナ張ったり、人と繋がったりしておかないとねぇ。今は身近な人々を大事にしていくことからかなぁ」
*
ぼんやりと考えていた今日のこのタイミングで、いきなり地域の高校生たちとの繋がりがうまれる話が舞い込んできた。
少しだけ「ナシじゃないな」と思った。
いやいや、でもな、日本語を教えるにはめっちゃ準備が必要やねんって。
アカンあかん。
私はこれ以上時間とれない、ムリー。
姑の介護もあるので現実的には厳しそうだ。
やっぱりお断りしようと口を開いたら、私の口ったら「やります」と発しやがった。
なんで?
なんでなん?
あんた今、脳からの意思伝達ムシしたん?
「あかんでー、キャパオーバーやでー、ムリムリ、断ろう」って伝達あったやろ?
それともなんや、伝達システムがバグったんか?
とにかくなんでや、おい!
やりますってなんやねん!!!!!
校長先生はとても明るい声で喜んでくださった。
パッと顔がほころんでいるのが電話ごしに伝わってくる。
「じゃ、私はこれで政府に提出しますね。今日はここまで。13日の月曜日に学校に来てください。詳しい話はそこで。ではまたー」
私は、なんでや、おかしいやろ、と思いながら電話を切った。
私の口、どうなってるんや。
うーん。
よくわからないけど、「やってみよ」のサインなんだろうなぁ。
いや、もしかしたら「やってみたい」だったのかも。
そうか、無意識の「やってみたい」に呼応して「やってみよ」と返事がきたんだな。
時間がないとか、キャパオーバーとか、どうにかできるんだ、きっと。
なぜかがわからなくても、どうすればいいのかがわからなくても、なんとかなる!
よーし、自分と神様を信じていくぞ。
そう悟った私は、日本語を教えることを静かに受け入れた。
これも神様の思し召し。
(Midori Rahma Safitri)
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