嘆き節ばかりの姑と嘆き節を聞くのに疲れた嫁が、心通わせられた話

姑サーちゃん(以下、サーちゃん)と私の1か月ほど前の話。

サーちゃんはずーーーーーっと次男の心配ばかりしていた。
寝ても覚めても次男の心配。

サーちゃんには4人の息子がいる。うち1人は前夫との間の息子で、スマトラ島に住んでいるためほとんど会えない。

残り3人は、しっかり者の長男、自由奔放な次男、私の夫でもある心優しい三男という顔ぶれだ。

この次男が、ロンボク島から船で30分の離島に働きに行ったきり、帰ってこない。

次男は結婚して子どももいるのだが、いろいろな問題が重なってついに離婚したばかりだ。

その次男のことをサーちゃんは「元気だろうか」「ちゃんと食べられているんだろうか」「働き口はあるのか」と心配している。

「ほらー、そうやって心配してたらまた血圧あがるから」
「放っておけよ、あいつのことなんか」

長男も三男も私もご近所さんも、サーちゃんにそんなに思いつめないようにと散々言って聞かせた。

なぜなら、心配しすぎて頭や胸がイタタタタ…となるほどだったから。
一体これまで何度薬局へ走ったことか。

心配という名の嘆きは、私たちの心までをも疲弊させていた。

私は単に「またかぁ」とうんざりしながら聞いていたが、どうも長男や三男(私の夫)はもっと複雑だったようだ。

ある日、夫が「あいつのことばかり考えやがって」とこぼしたことで、私にはない気持ちを彼らがもっていることもわかった。

「どうにかして、サーちゃんの嘆き節をやめさせたい。」

はじめはこう思って、ことごとくサーちゃんの嘆きに反発していた。

声を荒げることはしないが、「お母さん、もうその話はやめようよ」「そんなふうに考えるのはよくないよ」などと言っていた。

言えば言うほど、サーちゃんはしょんぼり小さくなった。

なぜかわからないけれど、「こんなふうにお母さんを小さくさせてはいけない」と思った。

サーちゃんは自分の気持ちを吐き出したい。
心配する気持ちをわかってほしい。
↑↓
吐き出されるほうはたまったもんじゃない。

この相反する気持ちをどうすればいいんだろうか。

私はじっと考えていた。

サーちゃんの願いはなんだろうか。
どうなったら幸せを感じるんだろう。

一番は…次男に元気な顔をみせてほしいってことだなぁ。
でも、次男がいつ帰ってくるかわかんないしなぁ。

長男も三男である私の夫も、離島まで次男を探しに行って「帰ってこいよ」と声をかけていた。一度や二度ではない。それでも次男は帰ってこないんだから、彼は帰りたくないんだよね。

どうしたら、どうしたら、どうしたら。
サーちゃんは心穏やかに幸せを感じながら過ごせるんだろう。

そして、私たちもサーちゃんの嘆きや心配事を聞かずに、笑っていられるのだろう。

この日も、庭の草木に水をやっていたところ、サーちゃんの嘆き節が聞こえてきた。次男が帰ってこない…とボヤく。

はじまったはじまった。あーあ、サーちゃんの心を和らげるような気の利いたことってなんだろう…と私はぐるぐる考え始めた。

あ、そうだ!

「ねぇ、お母さん。日本では、『便りがないのはいい便り』っていうんだよ」

サーちゃんの声がとまった。
私に耳を傾けているのがわかる。

「病気になったりケガをしたり、何か大きな問題があるとすぐ連絡がくるでしょ。逆にそんなふうに便りがないということは、何も問題なく元気だってことよ。兄さん(次男)からは連絡ないから、兄さんは元気にしてるはずよ」

「ありがとう。いいこと教えてくれて。覚えておくわ」

サーちゃんの口から嘆きじゃなくてありがとうの言葉がでた。

わぁ…と拍手したくなった。

ー誰に?

私たちに。
はじめて、サーちゃんの心に届くような声かけができた私に。
素直に私の言葉を聞き入れてくれたサーちゃんに。

何かとても報われた気がしたのと、サーちゃんと心を通い合わせられた気がした。

(Midori Rahma Safitri)

※この記事は、noteに 2019年11月10日初出したものです(noteアカウント不調のため移動)

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