姑サーちゃん(以下、サーちゃん)と私の1か月ほど前の話。
サーちゃんはずーーーーーっと次男の心配ばかりしていた。
寝ても覚めても次男の心配。
サーちゃんには4人の息子がいる。うち1人は前夫との間の息子で、スマトラ島に住んでいるためほとんど会えない。
残り3人は、しっかり者の長男、自由奔放な次男、私の夫でもある心優しい三男という顔ぶれだ。
この次男が、ロンボク島から船で30分の離島に働きに行ったきり、帰ってこない。
次男は結婚して子どももいるのだが、いろいろな問題が重なってついに離婚したばかりだ。
その次男のことをサーちゃんは「元気だろうか」「ちゃんと食べられているんだろうか」「働き口はあるのか」と心配している。
「ほらー、そうやって心配してたらまた血圧あがるから」
「放っておけよ、あいつのことなんか」
長男も三男も私もご近所さんも、サーちゃんにそんなに思いつめないようにと散々言って聞かせた。
なぜなら、心配しすぎて頭や胸がイタタタタ…となるほどだったから。
一体これまで何度薬局へ走ったことか。
*
心配という名の嘆きは、私たちの心までをも疲弊させていた。
私は単に「またかぁ」とうんざりしながら聞いていたが、どうも長男や三男(私の夫)はもっと複雑だったようだ。
ある日、夫が「あいつのことばかり考えやがって」とこぼしたことで、私にはない気持ちを彼らがもっていることもわかった。
「どうにかして、サーちゃんの嘆き節をやめさせたい。」
はじめはこう思って、ことごとくサーちゃんの嘆きに反発していた。
声を荒げることはしないが、「お母さん、もうその話はやめようよ」「そんなふうに考えるのはよくないよ」などと言っていた。
言えば言うほど、サーちゃんはしょんぼり小さくなった。
なぜかわからないけれど、「こんなふうにお母さんを小さくさせてはいけない」と思った。
サーちゃんは自分の気持ちを吐き出したい。
心配する気持ちをわかってほしい。
↑↓
吐き出されるほうはたまったもんじゃない。
この相反する気持ちをどうすればいいんだろうか。
私はじっと考えていた。
サーちゃんの願いはなんだろうか。
どうなったら幸せを感じるんだろう。
一番は…次男に元気な顔をみせてほしいってことだなぁ。
でも、次男がいつ帰ってくるかわかんないしなぁ。
長男も三男である私の夫も、離島まで次男を探しに行って「帰ってこいよ」と声をかけていた。一度や二度ではない。それでも次男は帰ってこないんだから、彼は帰りたくないんだよね。
どうしたら、どうしたら、どうしたら。
サーちゃんは心穏やかに幸せを感じながら過ごせるんだろう。
そして、私たちもサーちゃんの嘆きや心配事を聞かずに、笑っていられるのだろう。
*
この日も、庭の草木に水をやっていたところ、サーちゃんの嘆き節が聞こえてきた。次男が帰ってこない…とボヤく。
はじまったはじまった。あーあ、サーちゃんの心を和らげるような気の利いたことってなんだろう…と私はぐるぐる考え始めた。
あ、そうだ!
「ねぇ、お母さん。日本では、『便りがないのはいい便り』っていうんだよ」
サーちゃんの声がとまった。
私に耳を傾けているのがわかる。
「病気になったりケガをしたり、何か大きな問題があるとすぐ連絡がくるでしょ。逆にそんなふうに便りがないということは、何も問題なく元気だってことよ。兄さん(次男)からは連絡ないから、兄さんは元気にしてるはずよ」
「ありがとう。いいこと教えてくれて。覚えておくわ」
*
サーちゃんの口から嘆きじゃなくてありがとうの言葉がでた。
わぁ…と拍手したくなった。
ー誰に?
私たちに。
はじめて、サーちゃんの心に届くような声かけができた私に。
素直に私の言葉を聞き入れてくれたサーちゃんに。
何かとても報われた気がしたのと、サーちゃんと心を通い合わせられた気がした。
(Midori Rahma Safitri)
※この記事は、noteに 2019年11月10日初出したものです(noteアカウント不調のため移動)
コメント