2020年3月17日、インドネシア政府は、新型コロナウィルスの感染拡大防止策の一つとして、外国人の入国規制を発表した。観光業で生計をたてている夫にとっては、この先最低1ヶ月、「実質お客様ゼロ」を宣言されたに等しい。
が、嘆いていても時間がすぎるだけで何もいいことはない。せっかくだからと、夫にイスラム教の断食月がはじまる4月下旬までに家を片付けようと提案した。
私は、2020年年初に描いた今年のビジョン図の一つに「我が家のパワースポット化」を掲げていた。1年かけて家を片づけたりそれを習慣にしたり好きなものを揃えたりして、家族にとって心地よく充電できる空間にするのだ。
夫は私の提案に大賛成こそしなかったものの、「まあいいだろう」程度には許容してくれた。
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家の中で夫が一番気になっていたのは、敷地の北端に積み上げた震災後の廃材だった。
私の住む村は2018年8月に起こったロンボク地震で瓦礫の山と化した。しかし、瓦礫は被災後1-2ヶ月であらかた捨てたり再利用したりできた。今家にある廃材は、次の三つのうちのどれかの用途で使われた木材やアルミサッシなどの残骸だ。
- 倒壊しなかった母屋の盗難予防で窓やドアを覆った
- 被災後の屋外でのキャンプ生活で支柱や壁として利用した
- 壊れた小屋の再建時に足場を組んだ
けっこうな量があったため、私たち家族は見てみないふりをしていた。夫は経済面の立て直しのために精神的に疲弊して余力がなかった。私も姑も気になってはいたが、大きさや重さを考えるととても片付けられそうにない。
夫の気力体力が回復して働きに出始めてからは、私に、この木材から子ども用の積み木でも作って売れるんじゃないか…などの下心まで出てきた。だからといって、これまでの分も取り戻すかのように外で一生懸命働く夫に、片付けてとか何か作ろうよとか言い出す気にはならず黙っていた。
それを、地震から1年半たった今、やっと片付けられる。
あぁ、やれやれ。嬉しいナ。
なるべく早いうちに、近所の若者に少しお小遣いを渡して手伝ってもらおう。
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廃材の片付けをすることで夫婦の合意がとれた週の週末。夫の長兄がやってきて「ここ掃除したら?」と廃材を指さして言った。なんたるタイミング!
村役場で働く長兄は土日が休みだ。日曜日はたいてい姑のいるところをきれいに掃除してくれる。
私はまだ姑に「ここ汚いから掃除するよ!」と強く言えないのだが、長兄は「わー、汚い!もう!!」といきなり猛然と掃除をはじめる。そしてブルドーザーがごとく、その場にあるものほぼ全てを捨てるか必要そうなものは一ヶ所にまとめて突っ込む。
長兄が掃除するとパッと見は明らかにスッキリする。だが、姑にとって必要なものや使えそうになくても大事にしているものまで、断りもなく捨ててしまうことも多かった。
でも、廃材の片付けなら、迷いなく捨ててよいものばかりだ。捨てられて困ることはない。
私は長兄にそれなら一寸手伝ってよと頼み、みんなで一緒に一気に廃材を片付けることになった。近所の人々に渡すはずだったお小遣い代も浮くし、助かった~。
私たちは作業を分担した。夫と長兄は長く重い廃材を庭の東側の空き地へと移動させ、私と娘が小さな板切れなどを家の前のゴミ置き場に運ぶ。
しばらく黙々とそれぞれの作業をした。暑くて汗だくだが、娘はみんなで体を動かせるのが嬉しかったようで楽しそうに手伝ってくれた。
先に私と娘の仕事がひと段落ついたので、私はお昼ごはんの準備のためにいったん家の中へ入った。少し下ごしらえをしてから、夫と長兄に飲み物とお菓子を出そうと再び庭へ出た。
おお~、どんどんキレイになっている!いいぞ~!
せっかくだからカメラに収めようと、スマホで北端の元廃材置き場と新たに大きな木材だけを置き直した東側の場所をパチリ。
長兄が、この大きい木材で鶏用のケージをつくってあげるから鶏を飼いなよと言ってくれた。わーい、鶏飼いたかったんだ、ラッキー♪ 嬉しくなって、またまた木材を写真に撮った。みんな嬉しそうだ。いいね、家族みんなで一汗かいて、日曜日ってかんじだ。
スマホ越しに整然と並べられた大きな木材を満足気に眺めていたら、私はあることに気が付いた。
新たな木材置き場となった場所の一番隅に生えているはずの、パパイヤの木がない。
「兄さん、パパイヤは?」
「え?」
「ここにパパイヤの木が3本あったでしょ?」
「ああ、それなら引っこ抜いたよ」
長兄が、ほらあそこ、と視線を配った先に、見事に引き抜かれたパパイヤの木が横たわっていた。
おのれ、何さらしてくれとんねん!!!!!
あら、お里の知れる言葉で失礼。
しかし、長兄よ、あなたは一体なんてことをしてくれるのだい? それらの3本の木は、パパイヤの種から自生した芽を私が育ちやすい場所に植え替えて、日々見守りながら大切にしてきたものなんだよ。
兄さんに文句をいうと、また種を蒔けばいいじゃないかと笑われた。ムキーッ。せっかくここまで大きくなったのに!
私が怒っていることがわかった長兄は、じゃあ庭のあっちのほうへ植え直せばいいよとまたまた笑いながら言った。
こんにゃろ、ヘラヘラ笑いやがって~。このブルドーザーめ。
私は黙ってシャベルを手にパパイヤの木を植え直した。
あ~あ、しおれているよぅ。私のパパイヤ…。自分ちの庭で実ったパパイヤをもいで食べたかったのに…。
って、結局食べたいだけなんかいっ。
教訓。人にものを頼むときは、その人のやらかしそうなこともよくよく考慮しよう
(追記)
地震からの再建・復興ってすごく時間がかかるんだね。
うちなんて母屋が残っていたのに、こうだもの。
そんなことも、住んでいる村ごと被災してはじめてわかった。
日本でいくつもの地震のニュースを聞いてきたのに、自分事になっていなかったなぁ。
個人差・家庭差もあるから、それぞれのペースで進んでいこう。
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